退職給付会計の見直し 
 

企業会計基準委員会は、財務報告を改善する観点及び国際的な動向を踏まえ、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法、退職給付債務及び勤務費用の計算方法並びに開示の拡充を中心に退職給付に関する会計基準等の見直しを行い、平成24年5月17日に企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」を公表しました。

当該基準及び適用指針は、項目により適用時期が異なっており、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の見直しは、平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末からの適用、退職給付債務及び勤務費用の計算方法の見直しは、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとされています。

以下、主な変更点について、「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」に沿って説明を行います。

<主な変更点>
  • 名称等の変更
  • 未認識数理計算上の差異等の見直し
  • 退職給付債務等計算に係る見直し
  • 開示の拡充
  • 複数事業主制度の取扱いの見直し
  • 長期期待運用収益率の考え方の明確化
  • 適用時期等
  • 最終更新日:2013.8.11

    MENU退職給付会計退職給付会計に関する改正点

    名称等の変更

    改正前会計基準等 本会計基準等
    退職給付引当金退職給付に係る負債
    前払年金費用退職給付に係る資産
    過去勤務債務過去勤務費用
    期待運用収益率長期期待運用収益率

    ※なお、個別財務諸表においては、当面の間、この取扱いの改正を適用せず、改正前会計基準等の名称を使用します。


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    未認識数理計算上の差異等の見直し

    1. 貸借対照表上の取扱い
    未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を、税効果を調整の上で貸借対照表の純資産の部(その他の包括利益累計額)で認識することとし、積立状況を示す額(退職給付額ー年金資産)をそのまま負債又は資産として計上します。

    2. 損益計算書及び包括利益計算書上での取扱い
    未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の費用処理方法については変更しておらず、改正前会計基準等と同様に遅延認識(平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に費用処理)されます。 ただし、数理計算上の差異及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分についてはその他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分についてはその他の包括利益の調整(組替調整)を行うこととなります。

    3.個別財務諸表における当面の取扱い
    未認識数理計算上の差異等の見直しは、連結財務諸表にのみ行われ、個別財務諸表においては、当面の間、従来の処理方法を継続します。


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    退職給付債務及び勤務費用の計算方法

    1.退職給付見込額の期間帰属方法の見直し

    改正前会計基準では、退職給付見込額の期間帰属方法として、期間定額基準を原則とし、期間定額基準、給与基準、支給倍率基準、ポイント基準が一定の場合にのみ認められていました。
    新会計基準では、退職給付見込額の期間帰属方法として、期間定額基準と給付算定式基準(退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法)の選択適用が認められます。

    2.割引率の見直し

    新会計基準では、割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならないものとし、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用するか、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用することとなりました。
    改正前会計基準等では、従業員の平均残存勤務期間に近似した年数を基礎として割引率を設定する方法が認められいましたが、新会計基準等では認められません。

    3.予想昇給率の見直し

    改正前会計基準では、退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には「確実に見込まれる」昇給等が含まれるものとされていました。
    新会計基準では、退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には「予想される」昇給等が含まれるものとしています。


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    開示の拡充

    本会計基準等では、退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表、年金資産の期首残高と期末残高の調整表、年金資産の主な内訳(債券、株式等の区分)など、国際的な会計基準 で採用されているものを中心に開示項目を拡充しています。

    <確定給付制度の開示例>
    (1) 退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表
    期首における退職給付債務200,000
    勤務費用6,900
    利息費用 6,000
    数理計算上の差異の当期発生額 500
    退職給付の支払額 △ 11,200
    過去勤務費用の当期発生額 750
    その他 △ 450
    期末における退職給付債務 202,500

    (2) 年金資産の期首残高と期末残高の調整表
    期首における年金資産 140,000
    期待運用収益 5,250
    数理計算上の差異の当期発生額 △ 1,050
    事業主からの拠出額 10,300
    退職給付の支払額 △ 8,100
    その他 100
    期末における年金資産 146,500

    (3) 退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資 産の調整表
    積立型制度の退職給付債務 151,500
    年金資産 △ 146,500
         5,000
    非積立型制度の退職給付債務 51,000
    貸借対照表に計上された負債と資産の純額 56,000
    退職給付に係る負債58,000
    退職給付に係る資産△ 2,000
    貸借対照表に計上された負債と資産の純額 56,000

    (4) 退職給付に関連する損益
    勤務費用 6,900
    利息費用 6,000
    期待運用収益 △ 5,250
    数理計算上の差異の当期の費用処理額 2,000
    過去勤務費用の当期の費用処理額 200
    その他 50
    確定給付制度に係る退職給付費用 9,900

    (5) その他の包括利益等に計上された項目の内訳
    その他の包括利益に計上した項目(税効果控除前)の内訳は次のとおりである。
    過去勤務費用 △ 550
    数理計算上の差異 450
    合 計 △ 100
    その他の包括利益累計額に計上した項目(税効果控除前)の内訳は次のとおりである。
    未認識過去勤務費用 2,550
    未認識数理計算上の差異 8,000
    合 計 10,550

    (6) 年金資産の主な内訳
    年金資産合計に対する主な分類ごとの比率は、次のとおりである。
    債 券 48%
    株 式 39%
    現金及び預金 8%
    その他 5%
    合 計 100%

    年金資産合計には、企業年金制度に対して設定した退職給付信託が含まれている。

    (7) 長期期待運用収益率の設定方法に関する記載
    年金資産の長期期待運用収益率を決定するため、現在及び予想される年金資産の 配分と、年金資産を構成する多様な資産からの現在及び将来期待される長期の収益 率を考慮している。

    (8) 数理計算上の計算基礎に関する事項
    期末における主要な数理計算上の計算基礎(加重平均で表わしている。)
    割引率 3.0%
    長期期待運用収益率 3.6%


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    複数事業主制度の取扱いの見直し

    複数事業主制度のうち、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないケースでは、要拠出額をもって費用処理されますが、複数事業主間において類似した退職給付制度を有している場合について、改正前はこのケースにあたらないものとみなしていましたが、本会計基準等では、一律にあたらないものとはみなさず、制度の内容を勘案して判断することとしています。


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    長期期待運用収益率の考え方の明確化

    長期期待運用収益率は、保有している年金資産のポートフォリオ、過去の運用実績、運用方針及び市場の動向等を考慮して設定しますが、年金資産が将来の退職給付の支払に充てるために積み立てられ、長期的に運用されている点を踏まえ、退職給付の支払に充てられるまでの期間にわたる期待に基づくことを明らかにしました。 なお、これは従来の考え方を改めるものではなく、取扱いを明確化にしたにすぎないため、 会計方針の変更には該当しません。


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    適用時期等

    項 目 適用時期適用方法
    (1) 下記(2)を除くすべて平成25 年4 月1 日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用します。
    早期適用として、平成25 年4 月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができます。
    過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しません。
    適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、純資産の部における退職給付に係る調整累計額(その他の包括利益累計額)に加減します。
    (2) 退職給付債務及び勤務費用の計算方法の見直し並びに複数事業主制度の定めなど平成26 年4 月1 日以後開始する事業年度の期首から適用します。
    なお、当該期首からの 適用が実務上困難な場合には、所定の注記を条件に、平成27 年4 月1 日以後開始する事業年度の期首から適用することも認められます。また、早期適用として、平成25 年4 月1 日以後開始する事業年度の期首から適用することができます。
    過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しません。
    適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、期首の利益剰余金に加減します。

    上記(2)の適用にあたっては、その適用前に期間定額基準を採用していた場合であっても、適用初年度の期首において、給付算定式基準を選択することができます。


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