<入力も出力もない開かれたシステム>


オートポイエーシス・システムは、作動することによりみずからの構成要素を産出し、みずからの境界を産出します。産出的作動を行うことがシステムの基本であり、構成要素の産出はシステムにとって境界の導入となります。

有機体をオートポイエーシス・システムとしたとき、自動車のような機械(アロポイエーシス・システム)と対比して4つ特徴があげられています。

  1. 自律性 システムは自分におこるどのような変化に対しても、自分自身によって対処できる能力をもつ

  2. 個体性 システム自身でみずからの構成素を産出することによって自己同一性を維持する

  3. 境界の自己決定 自己の境界を、産出のネットワークの中から自分自身で決定している

  4. 入力も出力もない

自動車を上記の特徴点と照らし合わせてみますと、まず、車は運転者から入力を受け、位置の移動という出力をもちます。また、車の自律性は入力ー出力の連関のうちでしか成立せず、部品が摩滅しても部品を自分で産出することはないので、自分自身で同一性を維持するという意味での個体性をもちません。さらに車の境界は、自分で自分の境界を規定するのでなく、観察者によって規定されています。
このように自動車は、自律性、個体性、境界の自己決定性、入出力の不在いずれも成立していません。

また、既存の有機体論(開放系の動的平衡システムや自己組織システム)の視点から4つの特徴点をみると、自律性、個体性、境界の自己決定についてはおおむね理解することができます。
自律性は有機体が外的な刺激や環境条件のもとで形態を変え、あらゆる変化にもかかわらず自己を保持することで、個体性は栄養物を取り入れて自分自身の一部に変換し組み込むことであり、また、境界の自己決定はたとえば免疫システムによって自己と非自己の境界が区分されているようなことであると理解できます。

ところが、入力も出力もないという点については既存の有機体論ではほとんど理解することができません

自律性の規定そのものに入力や出力が前提されており、また、免疫システムが自己の境界を自己決定するさいにも外界からの物質の侵入が前提とされています。
入力や出力は自明の前提となっているはずですが、オートポイエーシス・システムにおいては入力も出力もないのです。
オートポイエーシス理論の特異さはまさにこの点にあり、システムの全貌は「入力も出力もない」という点を中心にしてイメージしていくことができます。

オートポイエーシス・システムとしての有機体はみずからの構成要素を繰り返し産出することをつうじて自己維持し、自分自身で同一性を保持しています。
また、有機体は自分の産出プロセスをつうじて自己産出することからシステムの境界を自分で産出します。

このように有機体を、連続的に産出を繰り返す作動するシステムとして捉えると、空間内で観察している視点とは全く異なった視点(システムそのものにとっての視点)へ転換されていることがわかリます。
有機体の特徴としてあげられている自律性、個体性、境界の自己決定性は、システムそのものにとっての視点から規定されたものであり、観察者の視点から捉えられた既存の有機体論の理解とは異なってきます。

このように視点を転換して、システムを産出的作動という点で捉えると、入力や出力のような因果的な作用関係でシステムを捉えたのでは、システムの産出関係は理解できません。
システムの境界を自分で産出することから、環境との関係で区画されるような境界はなく、その境界をもとに想定されているインプットもアウトプットもないことになります。観察者が行うシステムと外的条件との作用関係の分析は、システムの産出的作動を分析したことにはなりません。

オートポイエーシス・システムはみずからの構成要素を産出しつづける閉鎖したネットワークであり、産出関係については一貫して閉じていますが、作用関係については「内部も外部もない」というかたちで開かれているのです。


免疫反応は病原微生物や異種動物の成分や細胞、化学物質など「自己」以外のあらゆるものに対して起こります。喘息や花粉症などのアレルギーは環境の中にある物質に対して起こる免疫反応で、移植の拒絶反応も免疫が移植物を「非自己」と認識して起こる反応です。

このような免疫系における「自己」とはあらかじめ定められたものではなく、環境に応じて自在に変容していくもので、変化する環境との相互作用によりシステムの「自己」を形成していきます。

免疫システムは、システムが(自己と非自己の)境界を変えていくのではなく、環境との相互作用により境界が定まることでシステムそのものが成立し、システムの「自己」が規定されていく自己組織システムです。


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