小規模企業等の簡便法


退職給付会計基準では、従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合や退職給付の重要性が乏しい場合には、簡便法により計算した退職給付債務を用いて、退職給付引当金及び退職給付費用を計上することが認められています。

       
  1. 簡便法の適用対象範囲

    実務指針では、簡便法を適用できる小規模企業等を従業員数300人未満の企業としています。

    なお、従業員数が300人以上の企業であっても年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより数理計算結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、費用対効果の観点から簡便法によることが認められています。

    また、連結子会社であっても小規模企業等に該当するときには、連結決算上、簡便法によることが認められています。

  2. 簡便法による退職給付債務の計算方法

    実務指針では、次の方法の中から最も合理的な方法を選択することとしています。

    <退職一時金制度のみを採用している場合>

    1. 第36項@による簡便法

      退職給付会計基準の適用初年度の期首における原則法による退職給付債務の額と自己都合要支給額との比(比較指数)を求め、以後、期末自己都合要支給額に比較指数を乗じたものを退職給付債務とする方法

    2. 第36項Aによる簡便法

      期末自己都合要支給額に昇給率係数及び割引率係数を乗じたものを退職給付債務とする方法

    3. 第36項Bによる簡便法

      期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法

    <企業年金制度のみを採用している場合>

    1. 第36項Cによる簡便法

      退職給付会計基準の適用初年度の期首における原則法による退職給付債務の額と責任準備金との比(比較指数)を求め、以後、直近の年金財政計算上の責任準備金の額に比較指数を乗じたものを退職給付債務とする方法

    2. 第36項Dの簡便法

      在籍従業員については第36項A又は第36項Bの方法により計算した金額を退職給付債務とし、年金受給者及び待機者については直近の年金財政計算上の責任準備金の額を退職給付債務とする方法

    3. 第36項Eの簡便法

      直近の年金財政計算上の責任準備金の額を退職給付債務とする方法

    <退職一時金制度の一部を適格退職年金制度へ移行している場合>

    1. 第37項@の簡便法

      退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務と企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を上記の方法により退職一時金制度と企業年金制度に分けてそれぞれ計算する方法

    2. 第37項Aの簡便法

      在籍従業員については企業年金制度に移行した部分を含めた退職一時金制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者及び待機者については年金財政計算上の責任準備金の額をもって退職給付債務とする方法

  3. 簡便法による退職給付引当金の計算

    退職給付信託を設定していない(非拠出の)退職一時金制度については第36項及び第37項の方法により計算した退職給付債務の額を退職給付引当金として計上します。

    企業年金制度及び退職給付信託を設定した退職一時金制度については退職給付債務の額から年金資産の額を控除した金額を退職給付引当金として計上します。

  4. 簡便法による退職給付費用の計算

    原則として、期首退職給付引当金残高から退職一時金制度に係る当期退職給付額及び企業年金制度への当期拠出額を控除した後の残高と期末退職給付引当金との差額を当年度の退職給付費用として計上します。

  5. 簡便法の場合の会計基準変更時差異の取扱い

    簡便法を適用する場合においても原則法と同様に会計基準変更時差異を認識し、15年以内の期間内で費用処理します。
  6. 簡便法から原則法への変更

    簡便法から原則法への変更は認められますが、原則法から簡便法への変更は、次に該当する場合を除き認められません。

    1. 従業員数の著しい減少又は退職給付制度の改訂等により合理的に数理計算上の見積りを行うことが困難になった場合

    2. 退職給付の重要性が乏しくなった場合



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